防御率がよいから、このピッチャーすごい。そう思っていた時期ってありませんか?
確かに防御率は、昔から使われてきた伝統ある野球の指標です。しかし、防御率だけでは、必ずしも投手の実力を正しく判断できないことが多いんです。
野球というスポーツには、チームの守備力や運などの影響が大きく絡んでいます。だからこそ登場したのが、セイバーメトリクスという野球の分析手法。これは、数字の裏側にある本質的な価値を見抜くことを目的としています。
今回は、今でもよく目にする伝統的な指標も交えながら、セイバーメトリクスの投手の基本指標に絞って、「どの指標を見れば、どんなことが分かるのか?」をやさしく解説します。
ERA:1試合あたりの自責点
ERA(Earned Run Average)は、「1試合あたりの自責点(投手の責任で与えた点数)」を表す指標です。防御率と聞けば、誰でも知っている指標の1つですよね。
指標 | 計算式 | 具体例 |
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ERA(防御率) | ERA = (自責点 × 9)÷ 投球回 | 5自責点 ÷ 20投球回 → (5×9)÷20 = 2.25 |
しかし、ここには冒頭でも触れたように「守備のミスで取れなかったアウト」や「超ファインプレーでアウトにした味方の守備力」といった要素が紛れ込んでいます。つまり、「成績の見かけの良さ」が実際の実力とは、ズレてしまう可能性があることを忘れてはなりません。
だから、ERAを見る時は、これからご紹介するような他の数字とセットで評価するのが、今や常識となりつつあります。
WHIP:走者をどれだけ許したか?
WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)は、「1イニングあたりどれだけ走者を許したか」を見る指標です。WHIPも古くから使われている指標で、長年の野球ファンならお馴染みの指標ではないでしょうか。
指標 | 計算式 | 具体例 |
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WHIP | WHIP =(被安打 + 与四球)÷ 投球回数 | 15被安打・5四球・20投球回 → (15+5)÷20 = 1.00 |
WHIPはERAと異なり、たとえ失点していなくても出塁を多く許せば、WHIPの数値は悪化します。逆にWHIPが低ければ、「安定して試合を作れる投手」と高く評価されることになります。
BB%とK%:四球を出さず、三振を取れるか?
投手がどれだけ「コントロールよく投げられているか」、どれだけ「打者を力でねじ伏せられているか」を見るのが、BB%とK%です。
BB%(与四球率)は、投手が100人の打者と対戦した時、「何人に四球を出してしまったか」を示す数字です。数字が低いほど、狙ったところにビシッと投げられていることを意味します。
K%(奪三振率)は、100人中「何人を三振で仕留めたか」を見る指標。数字が高いほど、打者をねじ伏せる球威やキレがあると評価できます。
指標 | 計算式 | 具体例 | BB%(与四球率) | BB% = 与四球 ÷ 打者数 × 100 | 6四球・100打者 → 6÷100×100 = 6.0% |
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K%(奪三振率) | K% = 奪三振 ÷ 打者数 × 100 | 25三振・100打者 → 25÷100×100 = 25.0% |
この2つは、セットで見ると効果的です。四球が少なく三振が多い投手は、まさに相手に何もさせない「支配的なピッチングができる投手」だと言えるでしょう。
HR/FB:フライがホームランになる割合
HR/FB(Home Runs per Fly Ball)は、「フライのうち、どれだけがホームランになったか」の比率です。この数字が高いと、「一発を打たれやすいタイプ」という評価になります。
指標 | 計算式 | 具体例 |
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HR/FB | HR/FB = 本塁打 ÷ フライ数 × 100 | 10HR・50フライ → 10÷50×100 = 20% |
ただし、年によって結構ブレがあるため、長期的な視野で評価する必要があります。パワーヒッター揃いの打線と多く対戦していたり、狭い球場での登板が続いたりすると、あっという間に数字が悪化してしまいます。
BABIP:インプレー打球の被打率
BABIP(Batting Average on Balls In Play)は、「三振やホームランを除くフィールド内に飛んだ打球が、どれだけヒットになったか」を見る指標です。インプレー打球とは、フェアゾーン内に飛び、アウトにもホームランにもならなかった全ての打球を指します。
指標 | 計算式 | 具体例 |
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BABIP | BABIP =(被安打 – 本塁打)÷(打数 – 三振 – 本塁打 + 犠飛) | 50被安打・5HR・180打数・40三振・5犠飛 → (50-5)÷(180-40-5+5) = 0.321 |
通常どんな投手でも、インプレー打球の3割前後がヒットになります。もし、この数字が大きく上振れしている場合は、「守備に足を引っ張られている」か「不運な打球が続いている」可能性があります。逆に、極端に低い場合は、「守備に助けられている」か「運に恵まれている」だけかもしれません。
つまり、BABIPは投手の実力そのものを測るものではなく、運や守備の影響を見抜くための指標です。防御率(ERA)などで異常な数字が出た時は、BABIPを確認して背景にある原因を探る手がかりにしてみましょう。
FIP:守備に左右されない「真の防御率」
FIP(Fielding Independent Pitching)は、投手の純粋な実力を測るために、「防御率(ERA)から守備の影響を取り除いた」指標です。三振、四球、死球、被本塁打といった、投手自身がコントロールできる結果だけに注目して算出されます。要するに、FIPは「投手と打者が一対一で対峙した時、どれだけ勝負を制したか」を示すものです。
指標 | 計算式 | 具体例 |
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FIP | FIP = {(13×HR)+(3×BB)-(2×K)} ÷ 投球回 + 定数 | 3HR・4BB・20K・15投球回・定数3.10 → (39+12−40)÷15+3.10 = 3.83 |
もし、防御率(ERA)と比べてFIPに大きな差がある場合、単なる運不運ではなく、「味方の守備力が非常に高かった(あるいは極端に低かった)」といった要因を読み取る手がかりになります。つまり、FIPは、投手本来の力を映し出す指標と言ってよいでしょう。
数字を味方につければ、野球がもっと面白くなる!!
いかがでしたか?
「投手の成績」と聞くと、昔は防御率と勝ち星しか注目されませんでした。でも今は、数字を深く読み解くことで、「本当にすごい投手」を見抜ける時代です。
今回ご紹介したさまざまな指標を通して、単なる防御率や勝敗だけでは見抜けない投手の実力が、数字の裏側から浮かび上がってくると分かったのではないでしょうか。
セイバーメトリクスは、決してオタク向けのマニアックなものではありません。あなたの野球の見方を少し変えるだけで、試合が10倍楽しくなる魔法のレンズなんです。
次回は、「応用編」として、SIERAやxFIPなど、もう一歩踏み込んだ指標を紹介していきますね。お楽しみに!!